乾燥材の乾燥は実は重要で安心と安全を守るもの
つい先日、住宅建築の中でも重要な建て方の日に朝から雨となり止む無く中止となってしまいました。
最近の住宅は、以前の大工さんによる手刻みから機械化(プレカット)が進み高い精度が得られるようになりました。更に最近の厳しい国の制度により住宅の安全性や住み心地が高いレベルで要求され住環境は大きく改善されつつ有ります。この高い精度の要求に答える為に使われる多く木材も高いレベルでの品質が要求されます。
この高い品質を得るために大きく影響をするのが乾燥材の乾燥度合いで、それを示す数値を木材に含まれる水分の含水率表して品質の良し悪しを見ます。実はこの乾燥の技術が機械化に伴う材料の精度の向上と流通の合理化に大きく貢献しているのです。木材の品質は住まいの安全と安心に関わる大きな部分でもあり非常に重要な部分と言えます。
今回の雨で、乾燥材が濡れてしまえば品質の低下に繋がることとなり当然に中止の判断をせざるを得ません。
現在この乾燥材については家づくりの中では選択の余地が無いと言っても良いほど必然的なものとなっています。しかし過去をさかのぼれば、この乾燥方法の選択は材料の良し悪しに大きく影響を及ぼす重要な選択肢であったのです。
そこで、今回は是非とも奥の深い乾燥方法について知っていただきたいと思いあまり触れる事が無くなってしまった『実は大変に重要な木材の乾燥』についての話をしたいと思います。
このことが今後の住まい造りのヒントになればと思います。
乾燥材の種類
まず初めに乾燥材を作るための乾燥方法について触れたいと思います。
柱、梁などの構造材、そして内装材等(仕上や下地材)は、その乾燥方法や含水率の違いにより、下記の通り、大きく3種類に分類されます。
①KD材(Kiln Dry Wood)と呼ばれる人工乾燥材で、温度や湿度、風量等を制御できる釜に入れて短期間で乾燥させる方法
②AD材(Air Dry Wood)と呼ばれる天然乾燥材で、文字通り、自然に乾燥させる方法
③グリーン材と呼ばれる、天然乾燥過程がまだ十分でない木材(現在はかなり限定されています)
※数十年前までは、②の天然乾燥材が主流でしたが、現在では、①のKD材が主流となりつつあります。
もくじ
含水率について
まずは木材の状態によって変化する含水率についての説明です。
(木材の含水率とは「木材に含まれる水分量の指標」のこと)
飽水状態|含水率100〜200%
木が生きていれば、細胞は自由水と結合水で満たされた飽水状態で、含水率は100〜200%程度です。
飽水状態の木を伐倒した直後は、切り口から水が溢れていることもあるほどです。
生材状態|含水率60〜150%
伐倒後まだ乾燥させてない状態を生材といい樹種によって、また、部位が辺材か心材かによっても変わってきます。
一般的に、針葉樹は心材に比べて辺材の含水率が高いようです。広葉樹は、樹種にもよるので一概には言えませんが、針葉樹と逆で、辺材のほうが低いものもみられます
繊維飽和点|含水率約30%
伐倒後時間が経つと、自由水は完全に蒸発してなくなり、結合水のみが残っている状態に達します。
気乾状態|含水率約15%(平衡含水率)
木材を放置すると、結合水の減少が続き、大気中の温湿度に応じた含水率に収束していきます。この状態を気乾状態と呼び、気乾状態に達した木材は気乾材といいます。 地域や季節にも影響されますが、日本における気乾材の含水率は、全国平均で15%程度です。
全乾状態|含水率0%
全乾燥材と呼ばれ、結合水のほとんどがなくなった状態です。全乾材は、水分が全くないわけではありませんが、便宜上含水率は0%とされます。
木材の含水率と強度の関係
木材に含まれる、水分の状況により色々強度などの違いが現れます。
木材内の自由水(細胞壁と細胞壁の間の空隙に存在する水)が全て蒸発した状態で繊維飽和点(含水率30%)から含水率5%くらいまでは、含水率が低下するほど木材の強度は高まることが分かっています。
その理由は、結合水(自由に移動・蒸発しにくい状態の水)が減少する過程で細胞が収縮し、凝集力(木材の内部強度)が上がるためだと考えられ、木材の反り・割れ・ねじれ・寸法減少などの不都合が起こり始める部分でも有ります。含水率が30%以下から木材の収縮や曲げ強度、圧縮強度といった性質が変化し始めます。
材としての寸法・精度が高く、建築施工上より望ましい含水率は15%以下とされますが建築施工上通常使用されるのは20%以下とされています。
※乾燥材:建築基準法で推奨されている含水率15%以下
JAS規格で構造用製材は「20%以下」、仕上げ材は「20%以下」が基準とされており、日本の多くのケースでは「15%程度」が目安とされています。
乾燥材の特徴
次に乾燥材の其々の特徴についてです。
KD材メリット・デメリット
KD材メリット
KD材(人工乾燥材)の場合、2週間から一ヶ月程度で済みます。
また、KD材は、含水率をAD材(天然乾燥材)以上に下げることが可能なので、木材の狂いや暴れを極力減らすことが出来ます。木材の狂いがほとんど無くなる状態になることで、建築構造上、不具合が短期的には無くなり、仕上のクロスのひび割れ、建具の建付けが悪くなるなどのクレームを減らすことに繋がります。
現在の構造材加工の機械化(プレカット)の普及にこの狂いの少ないKD材が絶対条件と言って良いほど使われています。
KD材デメリット
KD材は良い点ばかりのように思えますが、大きな欠点もあります。
人工乾燥の釜に入れることで、含水率を下げることが出来るのですが、木の持つ脂身まで失うこととなり、木材の内部の割れが生じるなど、多くの問題を抱えます。木の持つ脂身を失うということは、木の性質が持つ「粘り」が無くなり、耐久性そのものも失います。乾燥を速めるため、木材の目の粗い強度の弱い材料を使用します。木材の細胞は50度以上に加熱されることで組織は死んでしまいます。死んだ木材細胞は、吸湿能力もほとんどなく、木の香りも艶もなくなり、強度も弱まります。呼吸しない。・強制乾燥をかけた直後から劣化が始まるただし、かつての日本の民家のように、建て替えの際に木材を再利用することは難しいと思います。
AD材メリット・デメリット
AD材メリット
AD材(天然乾燥材)は、KD材より狂いやすい材料ですが、木の脂身を失わないことで、木の性質が持つ「粘り」を保ち、表面割れの現象こそ起こりますが、内部割れのような構造的欠陥は生じません。つまり、狂いやすいというAD材の欠点を補うために、木の性質や素性を読みながら、大工さんが手刻みで加工を行えば、AD材を使用しても問題が無く、長い耐久性を保つということです。自然乾燥の木材は若者の肌のようなもの。収縮や膨張などの悪さもするが艶やかで張りもあるし呼吸する。それに、これから壮年期にかけて更に強くなる。だから何百年も家屋を支えることができるのです。
AD材デメリット
AD材(天然乾燥材)は、原木から製材されて、どんなに短くとも半年から一年の乾燥期間が必要
KD材より狂いやすい材料
グリーン材メリット
グリーン材についても同様です。伐採直後の水の滴るような状態の材木は論外ですが、ある程度の含水率(含水率30%以下)まで下がっている状態であれば、AD材同様、フォローすることは可能です。KD材とグリーン材を曲げ・圧縮・せん断試験などをすれば強度は、断然グリーン材の方が上です。
乾燥材の必要性
改めて乾燥の必要性について触れてみます。
原木から製材したばかりの木材製品は、まだまだ水分をたくさん含んでおり、「生材(なまざい)」と呼ばれる状態です。 建築資材として乾燥材が求められる理由は、この生材は乾燥が進むにつれ、変形や収縮が起こってしまい、建築構造上、不具合が出るからです。 乾燥するという事は、木材から水分が抜けるという事で、乾燥による変形・収縮で、曲り・反り・割れが生じる事になるので、生材の状態のまま使用して住宅を建築した場合には、後に自然乾燥してきた際、この変形や収縮の度合いが大きい為に、家の構造に歪みが起きる可能性が高くなります。 だから乾燥材が必要になるわけです。
昔の住宅は、周りが田んぼや自然の中だったり、土の上に建てられていたので、風の通りも良かったのですが、現在の住宅は自然の少なに環境に囲まれ、気密性の高い住まいで室内が暑かったり寒かったりする時は、窓や戸を開けて調整するのではなく、エアコンを使って室温を調整します。人工的に作られた温度調整により木材に負荷がかかり、割れやソリを起こしやすくなります。
国を挙げて、「長期優良住宅」が推奨されている昨今ですが、KD材が主流となっている現在の家造りをみると、果たして「長期」の文字が怪しいところです。大工職人の高齢化が進み、構造体の手刻みの加工が出来る職人が減りつつある現在、本当の木材の良さ、自然素材の良さを改めて見直したいものです。
乾燥方法
次に乾燥方法について大きく天然乾燥と人工乾燥の2つに分けて説明します。
天然乾燥の方法
天然乾燥は自然の力で乾燥させる方法です。天然乾燥をした材を「AD(Air)材」と呼びます。
天然乾燥は製材した材料を風の通りを考慮して桟積みをした状態で、屋外で乾燥をさせていきます。風がよく通り、太陽がよく当る場所でまたあえて木材を雨水に濡らす事で、適度な湿気を加えながら乾燥させたます。 乾燥にかかる時間が長く、平均して半年から一年くらいが目安となります。この間にそりのある材料は取除かれ結果的に良い材料が選ばれます。
かつては山での伐採時”にも乾燥が関係してきました。現在ではこだわりが無いと出来ない「葉枯らし乾燥」と「新月伐採」です。
「葉枯らし乾燥」は、木を伐採後、上の方の葉っぱ部分を残し全て伐採していきます。次に木の幹に残った水分は、残した葉に光合成を行わせ蒸散させます。水分が無くなった頃に6m~3mで木を切ります。
「新月伐採」は、月の周期に合わせて冬の新月期(11月~2月頃の満月翌日から新月まで)に木を伐採する方法です。この期間は立木が大地からの水の吸い上げが止まりこの中の水分が少ない状態となりこの時期に伐採はデンプン質が減少し、水分が少なく抜けやすくなるため、腐り、カビ、虫がつきにくい、狂いにくい(変形や割れがしにくい)等の良質な木材が得られるとされています。
人工乾燥の方法
人工乾燥はその名の通り、人工的に温度を上げて、水分を抜く方法です。人工乾燥をした材を「人乾(じんかん)材」や「KD(KilnDry)材」と呼びます。
人工乾燥には「低温除湿式」と「高温式」と呼ばれる方法が有ります。
「低温除湿式」は乾燥庫内の温められた木材からは水分が蒸発し、乾燥が進みます。しかし、木材から出た水分により庫内の湿度が上昇るので除湿機を利用して、庫内の湿度を落とし、乾燥効率を高め庫内の湿度は30%程度にまで下がります。 これが「低温」と「除湿」を組み合わせた乾燥方法で、乾燥期間は約1週間、含水率は桧の柱で18%前後まで下げる事ができます。
「高温式」は高温式は庫内温度を100~130℃まで上昇させ、木材の細胞を破裂させて水分を抜く仕組みで、低温除湿式に比べると、高い乾燥効果が得られますが、内部割れや変色などのマイナス面もあるようです。
また人工乾燥による乾燥材のもう一つの大きな症状に、一度雨などに水に濡れるとサイズの変更や狂いが生じやすい事でしょうか、自然乾燥の材料と比較してやや度合いが大きいのが特徴です。ですから、最近の建て方は、天気には特に慎重にになるのはその事があるからです。
昔であれば、木造住宅は大工が手刻みで上棟してから半年以上も土壁を塗ったりしながら、骨組みのまま置いていたので、その間に歪みや狂いが出た場合には調整が可能でした。現在はプレカットが主流で工期短縮の為に施工スピードが求められています。人工乾燥でないと対応が出来ないのが現状です。
まとめ
今回は木材の乾燥について触れてみましたがいかがでしたか。
木材の乾燥と言っても大変に奥が深い事が多く有ることが分かると思います。技術も化学も発達した現在では、世の中にある様々な物をあえて意識しなくても当たり前に間違いの無い良い物だと思って選択しがちですが、実は本当はそうで無く利益を追求する為にやむ負えず選択せざるを得ない事も多く有ります。
過去の技術や知識は多くの人の実践や経験などから生まれたもので現代でも通用する事が多くあります。こうした過去の技術や知識を古い事だとすべて否定するのでは無くこの伝統的な部分の選択も選択肢として残す必要が有ると思います。
本当の良い物は歴史を紐解かないと分からないことが多いものだと気づかされます。
青木建築では、新しい技術やシステムを導入しながらも昔ながらの伝統的な部分も大切にして行こうと考えております。